身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「あの日、美桜は〝島本〟と名乗って電話にでたよな。結婚しているならどうして名字が変わっていない? それに、俺の前で子供の話をするときの様子もどこかおかしかった。俺を騙せるとでも思ったのか。悪いが、気になってお前たちのことを少し調べさせてもらった」
「調べたって……」
「俺の秘書が優秀なのは、美桜もよく知っているだろ」
そう言われて思い浮かんだのは、メタルフレームの眼鏡が印象的な男性――榊さんが調べたのだろうか。
「美桜が出産をした時期から考えても、子供はおそらく俺との間にできた子で間違いない。あの頃、お前が俺以外の男と寝ていなければな」
「そんなっ……! 私、そんなことしていません」
「すまない。冗談だ」
思わず声を張り上げてしまうと、申し訳なさそうに柊一さんが謝罪の言葉を口にする。
「ということは、あのときにはもう美桜のお腹には俺の子供がいたんだな」
あのとき……とは、たぶん私と柊一さんが最後に顔を会わせた日のことだろうか。
私は、視線を再び下に落とすと、ぐっと口を結んだ。そのまま沈黙を続けていると、私の腕をつかんでいた柊一さんの手の力がふっと抜ける。