身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『――島本。ちょっといいか』
第三営業課へ配属になって半年が過ぎた頃。
いまだに慣れないパソコン作業に四苦八苦しつつ、先月分の売上データの数字を黙々と打ち込んでいると、不意に頭上から低い声が降ってきた。
誰だろう? 私は今とても真剣なんだから話し掛けてこないで……!と、そんな心の声が思わず顔に出てしまい、眉間に皺を寄せながら振り返ってしまう。
すると、そこにいたのが第三営業課のボスである芹沢課長だったので、慌てて眉間の皺を消すと素早く笑顔を作った。
『どうしましたか、芹沢課長』
私は、この人のことがちょっと苦手だ。
特別に何かひどいことをされたわけでも言われたわけでもないけれど、なんとなく雰囲気がこわい。
それに、第三営業課へ異動してきた初日から、芹沢課長が営業担当の社員を男性だろうと女性だろうと構わずに叱責する姿を目の当たりにして、この上司とは必要以上に関わらないでおこう……と、心に固く誓っていた。
けれど、なぜか芹沢課長は私にやたらと声を掛けてくる。たぶん、この部署に配属されたばかりの一番の新人の私を気にかけてくれているのだろう。