身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
私のデスクの近くを通るたびに〝仕事は覚えたか〟〝わからないところはあるか〟〝また残業しているのか〟など、あまり愛想のない表情で尋ねられる。
言葉だけを聞けば労いのように聞こえるが、私にはどうしても別の意味に聞こえてしまう。
〝まだ仕事を覚えてないのか〟〝わからないところなんてもうないよな〟〝早く帰れよ〟と、脅されているような気分になってしまうので、芹沢課長に声を掛けられるたびにいつも軽く恐怖を覚える。
今も〝ちょっといいか〟と声を掛けられただけで怯えている。
もしかして、何かミスをしてしまい怒られるのだろうか……。そうびくびくしていると、『あのさ』と芹沢課長が口を開く。
『お前、来月俺と北海道に一泊二日で出張だから』
『マジですか⁉』
思わず、心の声が飛び出てしまった。芹沢課長が顔をしかめたのがわかり、素早く謝罪する。
『す、すみません。ちょっと驚いてしまいまして。あの……どうして私が?』
『仕方ないだろ。お前しか手が空いているやついなかったんだから。文句あるのか』
『いえ……ございません』
鋭く睨まれ、私はふるふると首を横に振る。
どうやら私は、消去法で芹沢課長の出張の同行者に選ばれたらしい。