身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

 たしかに私はこの部署内でも一番の新人なので任されている仕事はそれほど多くはない。他の事務員は三名ほどの営業担当の補助をしているけれど私は一人だけ。しかも、部署内一優秀なお方なので、あまり私に仕事が回ってこない。

 それにしても、私なんかが課長の出張の同行者でいいのだろうか。

 不安な眼差しで芹沢課長を見つめていると、不意に彼の手が空席になっている私の隣の席のイスを引き、そこにどかりと腰を下ろした。

『島本は去年まで衣装事業部にいたよな。その前はドレスコーディネーターしていたんだろ』
『はい』

 衣装事業部に在籍していたのはたった一年だけだったし、その間に私がしていたことといえば雑用くらいだったけれど……。

『それならうちのオリジナルドレスはもちろん、ドレス関連のことは詳しいよな』
『もちろんです。ドレスのことならなんでも答えられる自信があります』

 パソコン作業はまったく自信がありませんけれど……と、心の中で付け足す。

 でも、大好きなドレスのことなら自信がある。

 専門学校ではドレス関連のことを中心に学び実際にデザインと制作もしていたし、セリザワブライダルに就職してからは式場に併設されているドレスショップでドレスコーディネーターとして働いていた。

 一年間だけど、衣装事業部にも在籍していたので自社ブランドのドレスの知識なら頭にたっぷりと詰まっている。

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