身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
昼食をすませて再び一階にある店舗に戻ると、厨房にいる牧子さんに声を掛けられた。
「美桜ちゃん。配達お願いしてもいいかしら」
「はい。大丈夫です」
アマドゥールは主に焼き菓子を中心に、店舗から徒歩十五分圏内の距離限定でスイーツの宅配依頼を受けている。それほど頻繁には入らないけれど、こうしてたまにある依頼には私が届けに行くことが多い。
牧子さんのもとへ近付くと、彼女は個包装されたマドレーヌをアマドゥールの店名が入った紙袋の中にせっせと詰めていた。
「これを、最近このあたりに新しくできた結婚式場へ届けてほしいの」
「結婚式場ですか?」
「ほら、大通り沿いにヨーロッパのお城みたいな大きい建物が新しくできたでしょ。たしか〝リリーオブザバリー〟っていう結婚式場だったかしら」
「リリーオブザバリー……」
その名称を聞いた途端、ドクンと心臓が激しく波打つのがわかった。牧子さんが笑顔で言葉を続けるものの、動揺が抑えられず話に集中できない。