身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
まさか気付かれていたとは知らず、目をぱちくりさせて驚いていると、芹沢課長はばつが悪そうに目を伏せた。
『最近知ったんだ。俺も上司として気付いてあげられなくて悪かった』
『いえいえ』
謝罪されてしまうと、こちらが焦ってしまう。
『島本の仕事スピードがあまりにも遅いから気になって、お前の指導を任せた柴田にどうやってソフトの使い方を教えたのか聞いてみたんだ。そしたら、歯切れの悪い言い方するから問い詰めると、マニュアル渡しただけだと白状した』
『そ、そうですか』
『そりゃ、覚えるのに時間かかるよな。あのソフト複雑だから。柴田のことはよく注意しといたから、これからはわからなければ相談しろ』
『はい。ありがとうございます』
ぺこりと頭を下げるものの、私はすぐに首を横に振る。
『でも、私の仕事のスピードが遅いのは柴田さんのせいだけじゃないです。他の人ならマニュアル渡されただけで理解できるのかもしれないし』
『いや、無理だろ。ある程度の説明はやっぱり必要だ。お前はそれすらもしてもらわないであれだけ入力ができるようになったんだから、マニュアル見ながら相当苦労したんだろうな。よく頑張ってるよ、お前』
『芹沢課長……』
彼の言葉がじんわりと胸に染みていく。