身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
芹沢課長は仕事に厳しい人だ。そのため、部下への指導も容赦がない。でも、しっかりと思いやりの心も持っていて、たまにかけてくれる労いの言葉が心に強く響く――そう、第三営業課のみんなが口を揃えて話している意味が、今ようやくわかった気がした。
『ありがとうございます』
私は芹沢課長に向かってぺこりと頭を下げた。
再び顔を上げると、視線が合わさる。そのまま見つめ合うこと数秒。視線をそらそうとすると、不意に芹沢課長の手が伸びてきて、私の頬に優しく触れた。
瞬間、ドキッと心臓が大きく跳ねる。
『えっ、あの……』
これはどういう状況なのだろう。
そのまま芹沢課長の手がそっと私の頬を覆うと、顔が近づいてきて、気が付いたときにはお互いの唇が重なっていた。
突然のことに大きく目を見開くと、軽く押し当てられた唇がゆっくりと離れていく。
目の前では、芹沢課長の熱い眼差しが私を見つめていて、私は目をぱちくりさせながらゆっくりと口を開く。
『い、今、キスしました?』
『したけど』
『な、なんで……』
『好きだからに決まってんだろ』
『キスがですか?』
『は?』
芹沢課長ってキス魔だったのだろうか。誰彼構わずにキスしてしまうような人なのだろうか。