身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
あの会社には、もう二度と会ってはいけない人がいる。
おそらく今頃は本社ビルの最上階で仕事をしているだろうから、式場になんているはずがない。それなのに妙な胸騒ぎを感じて、自然と足取りが重くなる。
それでも大通りを進んでいくと、牧子さんの言っていた通り〝ヨーロッパのお城みたいな大きい建物〟が目の前に見えてきた。
現在、全国に二十店舗以上展開されている結婚式場リリーオブザバリー。
そこを運営しているセリザワブライダルは、国内外に幅広い事業を展開する『芹沢ホールディングス』の傘下企業のひとつであり、メインとなるウエディング事業の他にも、レストラン事業、自社ブランドのドレスの開発から製造、そして販売までを行っている業界最大手の企業だ。
とはいっても、セリザワブライダルが最大手と呼ばれるようになったのはここ二・三年のこと。私が勤務していた頃は業界内での売上高ランキングは三位だった。
それが一躍トップに踊り出たのは、四年前に新しく社長へと就任した人物の見事な手腕によるものだと、そういえば最近テレビで特集されているのを目にした気がする。