身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『柊一さん……』
縁談を断ったというのは本当ですか?
そう尋ねようとして言葉に詰まり、続きの言葉が出てこない。
『なに?』
柊一さんに続きを促されても、口をパクパクとさせたまま言葉にできない。結局、『なんでもありません』と首を横に振った。
すると、不意に肩を軽く押されて、気が付くと私の背中は壁にぴったりと押し付けられていた。
すぐ目の前には柊一さんの顔が迫っている。もしかしてこの展開はキスされるのでは? とっさにそう思った私は反射的に瞼を閉じた。瞬間、すぐに唇を塞がれる。
啄むようなキスを繰り返されたあと、するりと柊一さんの舌が入り込んできた。どんどん深さを増していくキスに、すっかり翻弄されてしまい、何も考えられないくらい頭がぼうっとしてしまう。
息が苦しくなり、立っているのもつらくなって、気が付くと私の両手は柊一さんのスーツの上着をぎゅっと握り締めていた。
ちゅっ、というリップ音が静かな室内に響くと、柊一さんの唇がようやく離れる。
『ここ、会社です』
『知ってる』
『誰か来たら――』
言葉の途中でまた唇を塞がれてしまい、その先は言えなくなった。
まるで肌を合わせる前のような熱く激しいキスが続いたあと、名残惜しそうに柊一さんの唇が離れていく。