身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『いいなぁ。私もここに戻りたい』
かつて一年だけ所属していた部署を前に、つい本音がこぼれてしまう。
『若葉が羨ましいよ』
私と若葉が衣装事業部に配属されたのは同じ年だった。
私の所属していたブランドはもう解体されてしまったけれど、若葉の所属しているブランドは残っているので、彼女はデザイナーとして今もドレスに関わる仕事をしている。そんな彼女が羨ましくてたまらない。
すると、若葉がニタァッとした笑みを浮かべた。
『なに言ってんのよ。私は芹沢課長と付き合ってるあんたが羨ましいんだけど』
『ちょ、ちょっと若葉。それは内緒だってば』
焦る私に、若葉はケラケラと楽しそうに笑っていた。
その夜。
残業になってしまった私は、柊一さんと約束していた食事の時間に一時間以上も遅れてしまった。
『遅くなってすみません』
彼が待っている個室に慌てて飛び込むと、柊一さんは麦茶の入ったグラスに口をつけていた。
『仕事は終わったのか』
『はい』
実はまだ少し残っているけど嘘をついた。間に合わなかった分は、月曜の朝に早く出社してやるつもりでいる。