身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

 もぐもぐと口を動かしながらふと思う。

 柊一さんは、私なんかのどこが好きなのかな。

 きっと彼の周りには私なんかよりもずっと美人で頭が良くてしっかり者の女性がたくさんいると思うのに。どうして彼は私を選んでくれたのだろう……。

『――美桜』

 柊一さんに名前を呼ばれて、顔を上げる。そこにはさきほどまでの柔らかな表情を浮かべた彼はいなくて、どこか真剣な表情で私を見つめていた。

『俺と結婚しないか』
『え?』

 一瞬、すべての音が消えた気がした。

 結婚?

 その言葉の意味を理解したとき、思わず口の中の食べ物を吹き出しそうになった。いや、実際には少し吹き出してしまった。

 突然、結婚って……。

 いったいどんな冗談ですか。と、叫ぼうと思ったけれど、柊一さんの表情があまりにも真剣なので、そっと言葉を飲み込んだ。

 柊一さんは仕事用に持ち歩いているカバンに手を伸ばすと、そこから四角い箱のようなものを取り出した。テーブルの真ん中にコトンと置かれたそれは、上品な漆黒色の小箱。

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