身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『でも、ごめん』
ふと柊一さんの声が響いて、私はゆっくりと顔を上げた。
『それでも俺はお前を諦められない』
『柊一さん……』
『愛してる、美桜』
柊一さんの手が私の肩に回ると、片手で強く引き寄せられた。
『縁談のことや俺の進退については必ずなんとかするし、美桜との結婚も認めてもらえるようにする。だから……』
私の背中に回された柊一さんの両手にぎゅっと強く力がこもる。
『少しだけ距離を置こう。今の状態で俺と一緒にいたら芹沢家の人間がまた美桜を傷つけるかもしれない。そうならないためにも、俺は美桜とはしばらく関わらないようにする。すべてが解決したら、もう一度プロポーズをするから。それまで、俺を信じて待っていてほしい』
柊一さんが、私の体をゆっくりと離す。その手が今度は私の頬に添えられ、少し腰を屈めた彼の顔がゆっくりと近づいてきた。
けれど、あと少しで唇同士が触れ合う寸前で、柊一さんは私から素早く身を引く。頬に添えられている手も離れていき、力なく下に落ちると、ぐっと力をこめて握りこぶしを作った。
『また連絡する』
静かにそう告げると、柊一さんが私に背を向ける。そのまま足早にこの場を去って行った――。