身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
〝しばらく関わらないようにする〟
その言葉通り、この日から柊一さんからの連絡は途絶えた。私からもしなかった。たまに社内で顔を合わせてもお互いに目も合わせず、他人のふりをした。
そんな日々が一か月ほど続いたある日、私は柊一さんには何も告げずにセリザワブライダルを退社した。悩み続けた末の決断だった。
柊一さんのことを信じていなかったわけじゃない。彼ならきっとなんとしてでも私との結婚を推し進めようとするはずだ。でも、それをさせてはいけない気がした。
柊一さんは芹沢家の大切な跡取りで、子供の頃から芹沢ホールディングスの次期社長としての期待を周囲から一心に受けていた人だ。それに、本人だってそのつもりでたくさんの努力をしてきたのだと思う。それなのに、私との結婚のためにこれ以上、芹沢家と対立なんてしてほしくなかった。
そして私が出した答えは、柊一さんの前から姿を消すことだった。
私ひとりが欠けたところでセリザワブライダルにはなんの影響もない。ウエディングドレスのデザイナーになるという私の夢は、この会社でなくても叶えられる場所は他にもあるはずだ。