身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

「以前にも一度、ここの社員全員で食べたことがあるんですよ。そのときは直接お店に買いに行けたんですけど、今日は手の空いている者がいなかったので。こうして配達していただけて本当に助かりました」
「いえ、また機会がありましたらぜひご依頼ください」
「はい、ありがとうございます」

 もしも次に依頼があったときもまた私が配達するんだろうな……。

 リリーオブザバリーとはあまり関わりたくない私としては気が重たくなるものの、こうしてアマドゥールのファンが増えてくれるのは従業員としてうれしいことだ。

 ここで話は終わりになるのかと思ったけれど、女性スタッフが明るい口調でさらに言葉を続ける。

「今日はこれからプランナー会議があって、そのときの休憩用にマドレーヌを出そうと思っているんです。本社から社長もいらっしゃるんですけど、噂によると焼き菓子がお好きらしいので。きっとアマドゥールさんのマドレーヌも喜んでいただけると思います」
「えっ、あの人来るんですか⁉」
「あの人……?」

 思わず飛び出てしまった私の言葉に、女性スタッフが不思議そうに首をかしげる。

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