身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「ため息をついている暇があるなら、目の前の資料にしっかりと目を通して、早くサインをしてください」
「そう焦らすな。じっくりと読んでるんだろ」
「私には社長の視線は資料ではなく、さきほどからずっとスマホの画面に向けられているように見えましたが」
「お前、俺のことよく見てるな」
「秘書なので」
そう答えた圭太の視線が俺から素早くそらされ、自身のデスク上のパソコン画面へと向かう。高速でキーボードを打ちながら、再び口を開く。
「仕事人間のあなたがご自分の業務に集中できないほど気になるようでしたら、もう一度会いに行かれてみてはいかがですか」
「いや、待つと言ったんだから待つよ」
圭太の言葉にそう答えると、俺はデスクの上に乗せていたスマートフォンをスーツのポケットにしまった。すると、大きなため息が返ってくる。
「またそんな悠長なことを言っていると、四年前みたいに突然姿を消されてしまうかもしれませんよ」
「お前、嫌なこと言うな」
思わず圭太を睨みつけてしまうものの、その視線が自然と下に落ちていく。
「それだけはもう勘弁してくれ。ようやく見つけたってのに、二度も失ってたまるかよ」
そう呟いた俺の声が、空しく社長室に響いた。