身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

 四年前、俺の前から美桜が忽然と姿を消した。

 連絡を取る手段は一切なく、俺は美桜を失った。だからといって彼女に対する気持ちは消えなくて、むしろそれが俺を余計に苦しめた。

 あのときの縁談はやはり断った。華江さんが俺に味方をしてくれて、彼女にとって兄夫婦である俺の両親の説得に力を貸してくれたのだ。

 どうやら華江さんは俺と美桜を別れさせたかったわけではなく、応援しようとしていたらしい。

 あの日、美桜を社長室に呼び出したのもその話をしようとしていたそうだが、俺も美桜もすっかり勘違いしてしまった。そのことに、華江さんも責任を感じたらしい。せめて俺の縁談だけでも取り消そうと俺の両親の説得に力を貸してくれた。

 その結果、俺は無事に縁談を断ることができた。それだけじゃなく今後一切俺の結婚相手には干渉しないと約束してもらえた。

 ただ、ひとつだけ条件を課されてしまった。それは、俺が社長へと就任した後、セリザワブライダルを業界一位に押し上げること。

 そのために俺は以前にも増して仕事に打ち込んだ。そうすることで、美桜を失った焦燥感も同時にかき消したかったのかもしれない。

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