身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
圭太にこれ以上急かされるのはごめんなので黙々と書類に目を通していく。
ちょうど確認を終えたとき、スーツのポケットの中でスマートフォンが振動していることに気が付いた。
取り出して確認すると、見知らぬ番号が表示されている。が、すぐにそれが美桜からだと気が付いた俺は、すぐにスマートフォンを耳に当てる。
「もしもし、美桜?」
そう声を掛けると、しばらくしてから控え目な女性の声が戻ってくる。
『こんにちは、美桜です。今お時間大丈夫ですか』
「ああ、問題ない」
すぐにそう答えたものの、それを聞いた圭太の突き刺すような視線を感じる。書類に早くサインをしろと無言の圧力をかけられているようで、俺はくるんとイスを回転させると圭太に背中を向けた。
デスクのすぐ後ろにある窓の向こうに広がる都心のビル群を眺めながら口を開く。
「連絡してくれてありがとう、美桜」
『いえ……。いろいろと考えましたが、やっぱりきちんと柊一さんとお話をした方がいいと思って』
「そうか」