愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
日下さんとの沈黙が居たたまれなくなって、私は取り繕うように早口で捲し立てた。

「だ、だって下手って言われてもどうすればいいんですか?」

テンパりすぎて恥じらいも何もない。
思ったことを口にしてしまい、だんだんと羞恥心がわき上がってきた。

「さあ、俺に聞かれてもわかんないけど」

日下さんは動じず、あっさりと流す。

「で、ですよねー」

ああ、日下さんに何言ってるんだろう私。
せっかくお話ができる機会だっていうのに、こんなの印象最悪だ。嫌われてしまったらどうしよう。

私の心配をよそに、日下さんは頬杖をつきながらゆったりと私を見る。

「……ねえ、西尾さん。下の名前何?」

「えっと……芽生です。芽生えるって書いて芽生」

わかりやすいようにテーブルに指で書いて見せる。

「芽生」

ふいに呼ばれて、テーブルから視線を日下さんへ移した。
日下さんの長い腕がすっと伸びて、指が頬に触れる。撫でられる感触に、全身ゾワゾワと鳥肌が立った。
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