愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
なのに。

日下さんがそっと私の頭を撫でた。
優しく、ゆっくりと。

私は手が止まり、とたんに仕事に集中できなくなる。触れられたところから日下さんのあたたかな手の体温が感じられて、おさまっていたドキドキがまた再発してくる。

「……日下さん、私仕事中です」

「知ってるよ。でも芽生に触れてると安心するんだ」

柔らかく微笑む日下さんに釘付けになる。私の心臓は壊れてしまうのではないかというほどドキドキが止まらない。

そんな時に限ってまた電話が鳴る。
ため息が出そうになるのを我慢して日下さんに断りを入れてから電話を取った。ただのシステムの問い合わせ電話なのに、終始私を見ているので緊張が止まらない。

ようやく電話を終えると、日下さんが自分の携帯電話をテーブルの上に置いた。

「芽生、あとで連絡先、交換しようか?」

とたんに沸き上がる溢れんばかりの気持ち。
それはずっと望んでいたことだ。

「はい、ぜひ!」

「これからは何かあったらすぐに俺に電話して。芽生のこと、いっぱい教えて」

「私も……私も日下さんのこといっぱい知りたいです」

またひとつ、日下さんとの距離が近くなる。
嬉しさで溢れんばかりの私の目には知らず知らずのうちに涙が滲んでいた。

また仕事を再開する私の横で、日下さんは机に突っ伏して目を閉じる。
何だか子供みたいな日下さんが可愛くて、私はますます幸せな気持ちになった。
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