愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
***


私の足が治った頃、日下さんと金木犀へ赴いた。

「やだっ、アンタたち本当に付き合ってんの?!」

ママが日下さんと私を交互に見ながら思いきりしかめっ面をする。

「ママだって応援してくれたじゃん」

「そりゃそうだけどさ、実際にそうなると何だかねぇ、私の暁ちゃん取られたみたいでいい気はしないわ」

「何それぇ」

今度は私が膨れっ面だ。

私たちのやり取りを横で静かに聞いている日下さんは動じることなく、終始クールに飲んでいてかっこいい。ていうか、騒いでいる私が子供っぽく見えて何だか悔しい。

「……日下さんはいつも何飲んでいるんですか?」

「え。これは……」

話題を変えようとしたのに、日下さんとママの空気が凍りついた気がした。

あれ?
聞いちゃダメだった?

「これはオリジナルで」

「オリジナル?日下さんが考えたんですか?」

ママに尋ねるとママは困ったように日下さんを見た。私も日下さんを見る。続けて日下さんも困った顔になった。

「お客さんが考えたやつ。暁ちゃん気に入ってるのよ。ねっ」

「ふーん?」

納得いかない私は適当な相槌をうつ。

どうせあれでしょ。
香苗さん絡みなんでしょ。
変な気のつかい方、やめてほしい。

私は不貞腐れたように目の前のピーチフィズをがぶ飲みした。
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