愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
お酒が体に染み渡りアドレナリンが出てくる。私はぐっと拳を握って日下さんに向き合った。

「……日下さん、香苗さんのこといろいろ教えて下さい。日下さんが愛した香苗さんを私も好きになりたいから。思い出を共有してもらえますか?」

ぐっと言葉に詰まった日下さんは眉間を押さえる。苦しげな表情は何か迷っているようにも見えた。日下さんは私の方をチラリと見ると、小さく息を吐き出す。

「……香苗スペシャル。香苗が考えたオリジナルブレンド」

ズキッと胸が痛んだ気がした。
やっぱり香苗さん絡みだったことが複雑な気持ちにさせる。

「ほら、芽生ちゃんそんな顔する。だから言いたくなかったのよ」

ママが大きなため息をついた。
ため息をつきたいのは私だって言うのに。

ママをキッと睨むと、バツが悪そうにそそくさと他のお客さんの元へ退散していく。

それを確認してから、私は日下さんの方を向き毅然とした態度で言う。

「私との思い出はこれからいっぱい作りましょう?きっと楽しいことがいっぱいですよ。いっぱい笑ってもらいます。覚悟してください」

「……芽生には敵わないな。芽生が側にいてくれるなら、心から笑える気がするよ」

そう言う日下さんと見つめ合い、二人ふふっと微笑んだ。
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