愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
「日下、さん?」

恐る恐る名前を呼ぶと、日下さんはゆっくりと瞬きをして私を見る。その目は不敵に微笑み、落ち着いた照明と相まって魅惑的だった。

「俺と寝てみる?」

「……え?……えっ?!」

「俺のこと好きなんだよね?」

「好きです、けど。だってそんな……」

「俺も芽生に興味あるからさ」

頬に触れていた指が私の唇をそっと撫でた。まるでこの後キスをするかのような仕草に私の心臓は跳ね上がり、体の奥から熱が込み上げてくる。

「あらやだ、芽生ちゃん顔真っ赤よ。飲みすぎなんじゃない?」

いつの間にか戻ってきたママが私の顔を見て驚く。自分でも分かるくらい顔はほてり、ママのツッコミに何も反応できずその場で固まってしまった。

「……送るよ。ママ、彼女の分も俺が払うから」

日下さんが立ち上がって私の手を握った。
私はされるがまま、ただ日下さんの後を追うように歩を進める。

「芽生ちゃん、暁ちゃんに迷惑かけるんじゃないわよっ!」

ママの呆れた叱責を背に、日下さんと私は金木犀を後にした。
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