愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
そういえば確認していなかった。
いや、確認するなんて概念はなかった。

日下さんは結婚している、のかな?

いや、たとえ結婚していなかったとしても、左手の薬指に指輪がはまっている時点で明らかに女の影があることは間違いない。

どうしよう。
知らなかったとはいえ、日下さんと体を重ねてしまった。

私の中のキラキラとした思い出は一瞬のうちに灰色になって崩れ落ちた。

じゃあ日下さんは遊びで私を抱いたということだろうか。そう考えて、はっとする。

あのとき“ごめん”と日下さんは言った。
意味がわからなかったけど、つまり紐解けばそういうことだと言うことだ。きっと日下さんは、妻がいるけど遊びで抱いてしまってごめんと言っていたに違いない。

だけど……。
やっぱり確認もしたい。
本人に直接聞けばいいのだが、仕事中にそんな話はできるわけがない。あれ以来、本当に仕事以外の話をしていないし、そもそも今日だって久しぶりに仕事で関わったのだ。

「う~~~」

私は頭を抱えて机に突っ伏した。
見かねた同僚が、早く帰りなと声をかけてくれたが、返事すらできなかった。
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