愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
「あの、失礼なことばかり言ってすみませんでした」

私は立ち上がって深々と頭を下げた。

「芽生」

名前を呼ばれると共に手を取られ、はっとなって顔をあげると日下さんと視線が絡み合う。甘く疼くような視線に心臓が跳ねた。

「俺が今何を思ってるかわかる?」

手をぎゅっと握られ、日下さんの親指が手の甲をゆっくりとなぞった。

「……わからないです。怒ってはいなさそうですけど」

ドキドキとだんだん胸が苦しくなってくる。
なぜ手を握られているのかわからないけれど、それを振りほどこうとは思わなかった。

日下さんの綺麗な口が小さく動いた。
店内のBGMに欠き消された声が届かなくて、日下さんの口の動きだけで読み取る。

”抱きたい”

そう分析して一気に体温が上昇した。

いやいやいや、違うでしょ。
そんな馬鹿な。
私の思考、落ち着いて。

一歩後退ろうとしたところ、握られた手がぐっと引っ張られ少し前のめりになった。日下さんとの距離が近くなったところで耳元に届く声。

「芽生を抱きたい」

とたんにぞわっと全身鳥肌が立ち、走馬灯のようにあの日の記憶がよみがえってくる。

まさか、そんな。
また抱いてもらえるの?
< 27 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop