愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
「いつものちょーだいっ」

「はー、またアンタは泣きながらここに来る。他のお客さんがドン引きするからやめてよねっ」

日下さんの元から逃げ出して、その足で訪れたのはいつもの【金木犀】だ。
カウンターに座りぐずぐずと泣く私に、ママは呆れながらもピーチフィズを出してくれた。

「私きっと男見る目ない」

ぼそっと呟く私に、ママは容赦なく同意する。

「分かってるじゃん。今度は何よ?」

「……ママ一推しの日下さん」

「暁ちゃん?暁ちゃんはいい男よ」

「日下さん結婚してるんだもん」

「いい男は大抵結婚してるもんよね」

「そんなの薦めないでよ。不倫は絶対しないんだから」

「当たり前でしょ。不倫はダメよ。あんなリスクの高いもの、さすがにアタシも推奨しないわ」

日下さんのことを薦めておきながら不倫はダメだというママの言葉は矛盾している。私は大人げなく頬を膨らませたがママは気にもとめてくれない。

「はー、何で好きになっちゃったんだろ。……おかわりっ」

「やけ酒はオススメしないわねっ。暁ちゃんから何か聞いたの?」

「何かって?」

ママは少し考える素振りをしてから、逆に質問をした。
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