愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
「一年くらいは塞ぎこんでいたみたいだけど、去年くらいかしら?またうちの店にも顔を出してくれるようになって。よかったと思っていたところよ」

ママの話がじわじわと頭に入ってくるにしたがって、私の思考も回復してくる。

じゃあ私との行為は不倫ではなかったんだ。

ほっとした瞬間に力が抜けていく感覚に陥り、思わず大きなため息が出た。どうやらそのことはずいぶんと私の気持ちを蝕んでいたようだ。

だけど……。

ほっとしたのも束の間、今度は別の問題が浮かび上がってくる。

指輪をしているのはやっぱり奥様を忘れられないからだろうか。きっとそうなんだろう。そんな日下さんの気持ちが私に向くとは到底思えない。やっぱり私は遊ばれたのだろう。

「やだ、アンタ何泣いてんの」

ママがぎょっとした目で私を見る。
ポタリポタリと大粒の涙がテーブルに落ちた。

「わかんないけど涙が止まらない~」

私は日下さんのこと、何も知らない。
何も知らないんだ。

そう思うと無性に悲しく悔しい。
自分の気持ちが整理できず、私はぐしゅぐじゅと鼻をすすった。
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