愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
ママは私の空いたグラスを回収すると、代わりにお水をコトリと置く。

「アタシはさ、アンタに期待してるわけ」

「何で?何で私?」

言われた意味がわからなくて困ってしまう。そんな私にママはふっと目を細めて柔らかい口調で言った。

「芽生ちゃんは暁ちゃんのことよく見てるから。暁ちゃん繊細だからさ、アンタが包んであげなよ」

「……私こそ繊細なんですけど」

「ははっ!アンタ図太いから大丈夫よ!」

「ママ、ひっどい!マジひどいんですけどっ!」

不倫じゃないかと心配していた胸のつかえが取れたのと同時に重い事実がのしかかり、複雑な気分だった。

会社では結婚指輪をはめている日下さん。奥様を忘れていないはずなのに、一体私に何を求めていたのだろう。考えても何も答えが出ない。

「アタシが暁ちゃんを慰めてあげられればいいんだけどね~」

ママが満更でもない顔をして言うので、思わず吹き出してしまった。

「ふふっ。ママは存在しているだけでじゅうぶん癒しだよ」

「あら、褒められてるのかよくわかんないわね」

ママはがさつにガハハと笑い、つられて私もクスクスと笑った。
いつの間にか涙は止まっていた。
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