愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
一夜の過ち
郊外の一角に、こじんまりとしたバーがある。【金木犀】と書かれたその店は、知る人ぞ知る隠れ家的なおしゃれなバーだ。
そのバーのカウンターで、私はグラスを片手にママに愚痴っていた。
ママはお姉系のおっさんで、ざっくばらんに何でも聞いてくれるし頼りになるありがたい存在だ。就職活動で行き詰まった時も適度に励ましてくれたり喝を入れてくれたりと、頼れる私の悩み相談所となってくれていた。
「もうほんっとにありえないと思う。エッチが下手とか、そりゃ私は経験少ないけどさ、そんなフラれかたなくない?」
私一人だけが鼻息荒く憤り、ママも店内のBGMもゆったりとしている。
「一応聞いておくけど、その元彼はエッチ上手かったわけ?」
「……上手くないよ。だって全然気持ちよくなかったもん」
普段ならこんなことを大っぴらに言わない。だけど今日は怒りとお酒のせいで赤裸々に口が動いてしまう。
「そりゃあんた、自分のこと棚に上げるやつとなんて別れて正解よ」
ママは軽く一蹴すると、他のお客さんの元へおつまみを持っていく。その後ろ姿を見送りながら、私はぼそりと呟いた。
「……だって結婚も考えてたんだよ」
そう、このまま成り行きで結婚して子供を産んで、平凡ないわゆるよくある家族を作るんだと思っていた。
私だってもう二十三歳。
そういうことを考えるお年頃でしょう?