愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
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パートナー会社から昨年度のシステム障害のお詫びと今年度のご挨拶ということで菓子折をいただいた。
「たくさんあるから、西尾さんチーム内にでも配ってあげて」
「はい、かしこまりました」
上司に指示され、私は菓子折片手に各席へ一つずつ配っていく。
日下さんの後ろでこっそり深呼吸をしてから、何でもないように声をかけた。
「日下さん、お裾分けです」
「ありがとう」
お菓子と共に小さな付箋を付けておいた。
不自然にならないように、すぐにその場を離れる。
”金曜日、金木犀で待ってます”
日下さんは付箋に気づきながらも無反応だった。ずっと気まずいままの私たち。
はたして日下さんは来てくれるだろうか。
金曜日、少しだけ残業をしてしまったけれど私は一足先に金木犀へ赴いた。会社を出るとき日下さんはまだ仕事をしていたのだ。
来てくれるかどうかドキドキする。
そんな私のピリピリ感が伝わったのか、ママが怪訝な顔をする。
「芽生ちゃん何か顔怖いんだけど?」
「緊張してるの」
「は?何で?何かあるの?」
「決意を固めてきたの」
「ふーん、よくわかんないけど、頑張りなさい。飲みすぎないようにね」