愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
一人チビチビ飲んでいると、カラランと扉の開く音が聞こえた。カツカツという足音がどんどん近くなり、隣に誰かが座る。

足音だけでわかってしまう。
日下さんが来てくれたんだ。

「お疲れ様です。来てくださってありがとうございます」

「何か用だった?」

日下さんはママに「いつもの」と頼むと、きちんと私の方を向いてくれる。
ママは空気を読んでか、オーダーだけ取って場を離れた。
私は膝の上でぐっと拳を握る。

「日下さん、先日はすみませんでした。私、奥様のこと何も知らずに無神経なこと言いました。本当にごめんなさい」

一息に言うと私は深々と頭を下げた。
まずは自分の非礼を謝りたかったのだ。

「……芽生」

「あの、それで、それを踏まえた上でですね、いろいろ考えたんですけど、やっぱり私は日下さんのことが気になっちゃうといいますか、なんていうか、好き……ですし、日下さんには笑ってほしいから。せっかく会社でも同じチームになったことですし、日下さんを笑わせたいと思います」

「……どうやって?」

「えと、それは、これから考えます」

「何、それ」

「と、とにかくですね、私は日下さんをもっと知りたいので、お友達からお願いします」

私は日下さんの前に手を差し出した。
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