愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
その後、奇跡的にドナーが見つかり手術をすることになった。余命半年だと言われていたけれど、手術をしたことによりそれがなくなった。心底ほっとした。

薬の副作用で髪の毛は抜けてしまったけれど、香苗はそれを悲観したりしなかった。

「ねえ、私の誕生日プレゼントリクエストしていい?」

「いいよ」

「可愛い帽子がほしい。これあんまり気に入ってないんだよね」

「どんなのがいいの?」

「暁くんのセンスに任せる」

「それはプレッシャーだなぁ」

香苗は以前と何ら変わらない。
一時は落ち込んだ俺だったが、香苗の前向きさに逆に励まされて普通に接することができるようになった。

香苗は退院して自宅に戻ったけれど、入院していた分を取り戻すかのようにデートの誘いが絶えなくなった。あまり無理はさせられないけど、香苗が行きたいところには連れていってやった。

俺は無事に就職も決まって、香苗は金木犀でお祝いをしてくれた。その頃の香苗は以前にも増してすっかり元気で、来月には大学に復学したいと目をキラキラさせながら語った。

それはもう近い未来。

まさかその数日後にまた香苗が入院すると、誰が想像しただろう。
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