愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
連絡を受けて病院へ駆けつけた俺に、香苗はまたヘラっと笑って見せた。

「暁くん、また入院することになったよ。再発しちゃったみたい。あーあ、大学行きたかったのに。残念」

香苗は悲観しない。
だから俺も香苗に合わせて何でもないように振る舞った。

「香苗ならまたすぐ退院できるだろ」

「だね!」

本当は言いたいことが山ほどあった。

強がるなよ。
本当は怖いくせに。
泣きたいくせに。
何でもないように言うなよ。

でも口にできなかった。
香苗よりも先に俺が泣いてしまいそうだったからだ。俺が泣いたら香苗は自分のことよりも俺のことを心配し出す。

そういう、優しい香苗なんだ。

四月になり晴れて社会人となった俺は仕事が終わると毎日病院へ通う日々がルーチンになった。

面会時間の許す限り一緒に過ごす。ほんの短い時間だけれど、お互い干渉しない関係だった俺たちなのに毎日離れがたくて仕方がなくなった。

そして、香苗は日に日に細くなっていった。
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