愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
別室に呼ばれた俺は、香苗のご両親と向き合う。

「暁くん、気持ちは嬉しいんだけど……」

言葉を選ぶようにやんわりと断られたが、俺だってすんなり引く気はない。頑として譲らない俺に、ご両親は香苗の余命を告げた。

「もう、長くないのよ。あと半年だって、言われてるの」

「それでもいいんです。香苗さんを愛しているから、命が続く限り一緒にいさせてください」

頭を下げ続ける俺と困惑するご両親。
しばらく平行線が続いたが、結局は香苗自身が俺の説得に負けて、俺たちは結婚した。

結婚式などできるはずもない。ただ婚姻届を提出しただけだ。それでも十分幸せだった。

病室でささやかながら指輪をはめあった。
窓からの日射しが俺たちを祝福するかのように柔らかく差し込む。
二人だけの特別な時間に思えた。

「暁くん、ひとつだけ約束して。私が死んでも前を向いて生きるんだよ。笑ってね。それでさ、いい人見つけてよ」

「香苗以外いらないよ」

「ダメ。お願いだから約束して」

頷くことはできなかったが、無理やり指切りげんまんをさせられた。
悲しくも、穏やかな時間だった。
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