愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
カララン……と小気味良い音がして、新たにお客さんが入ってきた。

「あら、いらっしゃい。ここ空いてるわよ」

ママが呼んだのか自ら来たのかわからないけれど、突っ伏した私の隣に誰かが座った。

「いつもの?」

ママが差し出したグラスの行方を追うと、隣の彼と目が合った。そして私を見てぎょっとする。

まあそうだよね、酔っぱらいながら泣いてるんだもん。ドン引きだよね。しょうがないじゃない、こんなときくらい泣かせてよ。

「ああ、彼女ね、彼氏にフラれちゃったんだって。暁ちゃん慰めてあげてよ」

ママが余計なことを言うので、私は慌てて涙を拭って起き上がり、暁ちゃんと呼ばれた彼をしっかりと見た。

えっ……?!

「日下さん?!」

そこにはまさかの日下さんがいて、私はあまりの驚きに弾みで椅子から転げ落ちてしまった。

「やだっ、芽生ちゃん大丈夫?」

ママがカウンターから身を乗り出して心配してくれるのとは対照的に、日下さんは信じられないといった目で私を見ている。けれどすぐに手が差しのべられた。

「……大丈夫?」

ふおおおっ!
この手、触っていいんですか?

訳のわからないテンションの私は恐る恐る日下さんの手に触れた。ぐっと引っ張られ立ち上がると、ハイチェアに座った日下さんと同じくらいの目線になった。
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