愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
回りを見るようになってからやけに他人が気になるようになった。会社で気を遣われているのはわかっていたが、それを実感し始めるとなんとも言い難い気持ちになる。気持ち悪いというか居心地が悪いというか。

だから会社では以前のように笑うことで何でもないように振る舞う。そうすると、ようやく俺への気遣いは薄れてくるのだ。

誰も俺に構わなくていい。
俺を知らない人には、指輪をしていることで家庭を持っていると思わせている。煩わしい余計な誘いがなくなるからだ。

そんなことをしていたら、だんだんと家に帰ると違和感を感じるようになっていった。

今までは指輪をはめているからこそ香苗と繋がっていると思っていた。だけど今では一人で指輪をはめていることの虚しさが募るだけになっている。

会社では指輪をはめ、家に帰ると指輪をはずす。俺は一人なんだと言い聞かせることで香苗への想いを断ち切ろうとした。

それなのに。
彼女は俺の回りをチョロチョロする。
いや、無意識に俺の方が彼女を目で追っていたのかもしれない。

香苗に似ている?
いや、似ていない。
似ていないけどやっぱり似ている?
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