愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
ああ、気が重い。だが自分が蒔いた種だ。一言謝るくらいの誠意はいるだろう。

なのに謝ってきたのは芽生だった。

「日下さん、先日はすみませんでした。と、とにかくですね、私は日下さんをもっと知りたいので、お友達からお願いします」

頭を下げつつも手を差し出す芽生。きっと誰かから香苗のことを知ったのだろう。それなのに俺の事を知ってどうするんだ。面白くもなんともないのに。その感情がまったくわからなかった。

「いいよ」

感情もなく言ったのに、芽生はとたんに嬉しそうな顔をした。だが俺の口からは自然と冷たい言葉が紡ぎだされた。

「悪いけど俺は誰とも付き合う気はないから。悪かったよ。俺は最低な男だから。だからもう俺に構うな」

とたんに芽生の顔が歪んだ。ほのかに胸がチクリとしたのはきっと気のせいだろう。

お酒をぐっと飲み干して心を無にする。
もうこの話は終わりだ。
考えたくない。

それなのに芽生は俺にビシッと指を突きつけた。

「私は絶対に日下さんを笑わせます。そして絶対に振り向かせてみせます。覚悟してくださいね」

妙に自信に満ち溢れたその顔は俺から言葉を奪った。人を惹き付けるような朗らかな笑顔に思わず釘付けになる。

「ママ、おかわりっ。日下さんの分も。はい、じゃあ乾杯!」

芽生の勢いに圧されて俺は酒をあおった。が、芽生こそやけ酒のように飲んでいた。
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