愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
「……芽生、……そこまでしなくても」

いつまでも頭を床につけたままの私に、日下さんは若干引き気味になった。
私は情けなさすぎて自己嫌悪だ。

「うう、面目ないです」

「二日酔いになってない?」

「なってます」

「そっか、残念。食事でも行きたいなと思ったんだけど」

「え?やだ、行きます!お腹すいたと思ってたんです」

日下さんの言葉に慌ててガバッと顔を上げると、苦笑いの日下さんとバチっと目が合う。

「じゃあ俺も一旦帰るから、後でまた落ち合おうか」

ふ、と笑みを落とした日下さんはゆっくりと立ち上がると、あっさりと帰っていった。

何だか夢を見ているみたいだ。

頭からシャワーを浴びてぼんやりとした頭を起こす。夢見心地な気持ちがじわじわと実感を帯びていくようだ。

日下さんと食事だなんてまるでデートだよね。考えたとたんニヨニヨと顔が緩んでしまう。

すっきりした頭になると、よみがえる昨日の記憶があった。

──悪いけど俺は誰とも付き合う気はないから

わかってる。
浮かれないようにしなくちゃ。

私は改めて身を引き締める。
いろんな想いが渦巻くように頭の中をぐちゃぐちゃにするけれど、今は日下さんの近くにいられるだけでも嬉しいと思った。
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