愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
待ち合わせの駅のエスカレーターの横で私はソワソワとしていた。

好きな人を待っている時間というのはきっと普通より時間の流れが違うんだと思う。待てば待つほど、どんどん高まる気持ちが抑えられなくなる。ついさっきまで会っていたのに、ああ早く会いたいなんてウズウズしてしまうのだ。

ふいにぽんと肩を叩かれて私は笑顔で振り向いた。

「やっぱり芽生だった」

「……えっ?!」

そこには日下さんではなく元彼の匠馬が立っていて、私は驚きのあまり言葉を失った。

「元気だった?」

「あ、……うん」

「何か前より綺麗になったんじゃない?」

「そうかな?」

「うん、絶対綺麗になったよ。一瞬わからなかった」

「あ、えっと、匠馬も元気そうでよかったよ」

「俺?元気じゃないよ。芽生と別れてからさ、ずっと寂しくて。芽生俺の電話出てくれないし」

「あー、ごめんね。忙しくて」

「仕事ばかりしてると彼氏できないよ。俺がまた彼氏になってあげようか?」

「え、いや?」

匠馬はニヤニヤとしながら馴れ馴れしく私の肩を抱いた。そして耳元に口を寄せる。

「大丈夫だって、俺がいろいろ教えてあげるから」

いやらしく笑う匠馬に恐怖を覚え体が強ばる。不快感をあらわに振りほどこうと体を思い切り捻ってみたが、掴まれた肩は簡単にほどけなかった。

「やだ、離して!……きゃっ!」

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