愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
俺の姿を見つけると、軽く手を上げてこちらにやってくる。

「ご無沙汰しております」

「暁くん、今年も来てくれてありがとう」

「いえ」

香苗の両親とは香苗が入院中はよく会っていたが、亡くなってからはこの法要でしか会わない関係になった。

いつものように当たり障りのない挨拶をして特に他に話題もないまま、日下家の名前が呼ばれるのをじっと待つ。名前が呼ばれたら参拝をして卒塔婆をいただくのだ。

クーラーのない本堂は窓や扉が開け放してあり、二台の扇風機が微力ながらに首を振って動いている。

僅かな風とお経を詠む声、そしてセミの鳴き声が、ああ今年もまた一年が巡ったのだと思わせる、俺にとってのバロメーターとなっている。

卒塔婆を受け取ったあとはそれを持って墓地へ出向いた。俺は卒塔婆を、香苗の両親は手桶に水を汲んであとに続く。

寺院内にある墓地は古いものが多く、その中でひときわ新しくピカピカの石が香苗の眠る場所だ。

俺は一年に一回しか来ないけれど、きっと香苗の両親は定期的に訪れているのだろう。よく掃除が行き届いている。
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