愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
比べないで
最近気づいていた。
日下さんの左手の薬指、指輪がない。
会社に来るときは必ずしていたというのに。
最初は見間違いかなと思った。
珍しく忘れたのかもと思った。
だけど違うみたいだ。
やっぱり今日も指輪がない。
そしてもうひとつ大事なこと。
日下さんの笑顔もなくなっていることに気づいてしまった。
悲しそうに笑うことすらなく、ただ淡々と仕事をこなしているように見える。
聞いていいものか躊躇ってしまう。
ただ私の思い過ごしならいいけれど、また勝手にいろいろ想像して日下さんを困らせるのもよくない。
だけどふらりと立ち上がった日下さんに生気が感じられなくて、私は慌ててパソコンを閉じて後を追った。仕事なんかより日下さんのことが心配でたまらないのだ。
「日下さん、一緒に帰りませんか」
「いいよ」
日下さんは短く返事をすると、そのまま前を向いて歩き出した。