愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
そのままベッドへたどり着くことなく、近くのソファーへ押し倒される。今までよりも強引に激しく抱かれたけれど、私は抵抗しなかった。

ううん、抵抗する気なんてない。
初めから日下さんを受け入れるつもりで来たんだから。
だから大丈夫、私の決意は固いと思ってた。
心の整理くらいできてるんだと思ってた。

でも……違ったんだ。

何度目かのキスをして唇が離れるとき、僅かに開いた唇は小さく”香苗”と呼んだ。

日下さんは無意識だったかもしれない。
すごくすごく小さな音だったから。
でも私にははっきりと聞こえたんだよ。

その時即座に理解した。
日下さんは私を通して香苗さんを見ているんだと。その悲しげな瞳は私じゃなくて、私に似た部分のある香苗さんを見ているんだと。

じわじわと押し寄せる感情に私の目は潤んでくる。

ああ、悔しい。
傷つくつらいならこんな恋さっさと諦めればいいのに。それでもまだ日下さんを好きだと思ってしまう自分が悔しい。
何でだろう。
振り向いてほしいって思ってしまう。
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