愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
ほんの少しだけ、本当に本当にほんの少しだけ期待したけど、やっぱり日下さんは追いかけてこなかった。

私を好きだから抱いてくれたんじゃない。
私の中にある香苗さんに似た部分、それを求めて日下さんは私を求めていた。
それでも私を見てくれるなら、と思っていた。

残念ながらその期待は打ち砕かれた。
悔しい。
それでも好きだと思ってしまうのが悔しい。

「何で好きなんだろう?」

声に出すと余計に虚しさが溢れてまた胸に熱いものが込み上げてくる。
この気持ちをひとりで抱えるには大きすぎる。だからといって誰かに言うこともできない。

「ううっ……」

以前も夜の街でひとり泣いたことがあった。
どうしようもなく押し寄せる感情は、涙となって頬を伝う。

「うわーん!」

下で複数車線が行き交う歩道橋の真ん中で、街の喧騒に紛れるように私は叫んだ。通りすがりの人に何と思われようが知ったことではない。そんなことよりも、今の自分の感情をどうにかすることで精一杯だった。
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