愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
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「だからー、アンタね、ここは駆け込み寺じゃないのよ」
「いいじゃん、ママにしか愚痴れないんだから」
一通り泣き叫んだあと私は金木犀へ赴き、ふてくされながらママにグチグチ文句を言っていた。嫌みを言いながらもちゃんと私を受け入れてくれるママはやっぱり優しいと思う。
「私さ、日下さんのこと好きになったんだ」
「そんなのとっくに知ってるけど?何?まさか隠してたつもり?下手くそねー」
「うっ、ママの意地悪ぅ」
私は泣き真似をしながらテーブルに突っ伏した。頭上でカラカラ笑う声が聞こえる。
「で、暁ちゃんにフラれた?」
「……違うけど。いい感じだと思ったんだけどさ、……日下さんは私を通して香苗さんを見てるんだ。だから、悔しいっていうか」
あんなに泣いたのに、思い出すだけでまたぽろりと涙がこぼれた。これはもう涙腺がおかしくなってるに違いない。
「……やっぱり奥さんには勝てないよね」
ぼそりと呟く私に、ママは顔をしかめる。
「そこに勝ち負けを求めるのは何か違うんじゃない?不倫してるわけじゃないんだから」
「でも日下さんは私を通して香苗さんを見てるもん。私を見てくれてないもん」
大人げなく頬を膨らまして不貞腐れる。
ママは呆れたような大きなため息をついた。