愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
「あの、いつもどうしてそんなに寂しそうなんですか?」

この機会に聞いてみてもいいかなと思い、私はおずおずと口にする。日下さんはじっと私を見据えた。

「……そんな風に見える?」

「見えます。会社ではニコニコしているけど、何か無理している感じ、というか」

日下さんは手元のグラスをじっと見つめると、一気に飲み干した。私はその様子を眺めながら、自分のグラスにも口をつける。ピーチフィズの甘い香りが鼻を抜けていく。

「……西尾さんは彼氏にフラれたの?」

「うえっ?!その話蒸し返します?」

突然の質問に私はグラスを落としそうになった。

「寂しくないの?」

「寂しい……のかな?あー、うーん、よく考えたら寂しい気持ちはあまりないかもです。それよりムカつくっていうか落ち込むっていうか」

「ムカつく?」

「エッチが下手でフラれたのよ」

「まっママっ!言わないでっ!」

なぜそこで私の恥をバラすのか。
ママは意地悪そうに笑いながら私の前へお水を置くと、別のお客さんの対応に行ってしまった。

爆弾だけ置いておかないでよ。
私はママの後ろ姿に向かって思い切り睨みつける。
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