愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
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「暁くん、指輪って棺に入れられないんだって」
「は?!」
香苗が突然突拍子もないことを言い出したのは、結婚して数週間経ったときだった。
「え、何?何の話?」
「だからぁ、指輪は棺に入れられないの。せっかくこんな素敵な結婚指輪もらったのに。あの世に持っていけないなんて悔しいじゃない?」
「あの世って……」
俺はどう答えていいものか返事に困る。
「暁くん、私ちゃんと自分の余命知ってるから。気を遣わなくていいからね」
「別に気を遣ってなんか……」
「明るく笑い飛ばしてよ。私はその方が嬉しいな」
「……努力する」
「なんだとー?!」
香苗は俺を手招きすると、近寄った俺の頬をぎゅうっとつねった。
「い、痛い、ギブ、ギブ、香苗サン!」
「笑え~!あはは!」
いつだって香苗は明るい。
深刻な話も深刻にさせてくれない。
俺が香苗を助けてあげたいのに、逆に香苗に助けられる日々だ。
結局、指輪の話はなおざりになり、それ以降話題に上ることもなかった。