愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
もうどうだっていい。
別に今俺が死んだってどうってことない。

そんなことが頭をよぎったとき、芽生に声をかけられた。朗らかに笑う彼女は、殊更心配そうに俺に聞く。

「最近ずっと元気ないですね」

彼女はいつも俺の回りをチョロチョロする。そして見計らったかのように声をかけてくる。

それが暖かすぎて眩しい。
芽生は太陽のように、俺の心を優しく包む。

最低な俺は芽生に癒しを求めてしまう。さっきまで死んだってどうってことないと思っていたはずなのに、芽生に癒されたいとすがるのだ。

情けないけど、いつだって受け止めてくれる芽生に甘えていた。香苗のことを想いながらも、芽生の好意を心地よいと思う自分がいる。

芽生だけが俺を必要としてくれる。
芽生だけが俺を好きだと言ってくれる。

そのまっすぐな好意は、いつだって俺の心を癒してくれる。

だけど芽生は泣いた。
俺の前で、ぽろぽろと大粒の涙を流した。
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