愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
「……私の方こそ側にいさせてください」

震える声で伝えると、日下さんは私の頬を壊れ物でも扱うかのように柔らかく包む。

「ここも怪我をしたの?」

「擦り傷ですよ」

頬に貼られた傷テープの上から優しく撫でられ、あたたかく優しい手つきにうっとりとしてしばし微睡んだ。

ふ、と顎を持ち上げられる。
日下さんの形のいい唇が視界に入った。

と同時に、部屋の奥から携帯電話の着信音がけたたましく鳴った。

「えっ、あっ、私仕事中なんだった!」

はっと我に返り日下さんから離れる。ドキドキとする胸を押さえながら慌てて部屋へ入ろうとすると、玄関の段差にギプスが当たって躓きよろけた。

「きゃっ!」

「芽生っ!」

後ろから抱きかかえられる形で、日下さんが私を抱き止めてくれる。

「す、すみません」

「気をつけて」

ドキドキと胸が高鳴る。
日下さんと触れあうのは初めてじゃないのに、まるで初めてかのように緊張してしまう。

それもこれも、日下さんの私を見る目が甘いから。こんなことは初めてで、ドキドキが止まらなくなる。
一体どうしたというの?
< 99 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop