自分勝手な恋

 しまった。
 今の発言はおかしいよね。
 二人きりのこの状況が信じられなくて、声をかけてくれたことが嬉しくて、浮かれてしまっていた。

 でも松木さんはすぐに笑って答えてくれる。
 笑うとできる、目じりのしわも好き。


「疲れてる時には甘い物が欲しくなるからね」

「そ、そうですよね。松木さんこそ大丈夫ですか? 今日はマスクはいいんですか?」


 雨が降っているとはいえ、松木さんほど酷い花粉症ならつらいんじゃないかと思った質問。
 松木さんの花粉症は有名だから、これはおかしくないはず。
 コーヒーを取り出した松木さんは、私の座る席の向かいに腰を下ろしてまた微笑んだ。
 私だけに向けられる笑顔が嬉しくて、でも物足りなくて。


「今年は比較的症状が軽くて、どうにかね。酷い年なんかは本気で海外移住しようか悩むけど」


 松木さんはいつも優しくて、言葉遣いも丁寧。
 本当はもっと口が悪いのも知ってる。
 普段は『僕』だけど、仲の良い人たちの前では『俺』って言う低い声も好き。

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