自分勝手な恋

 思わず口をついて出た言葉。
 またやってしまった。
 どうする? 怖くて松木さんの顔を見ることができない。

 だけど車内に漂う重たい沈黙が、松木さんの困惑を伝えてくる。
 ここまできたら、もうひと押しする? 
 ううん、やっぱり無理。今のままでもいいから、松木さんの傍にいたい。


「あの――」


 どうにか誤魔化そうと思って顔を上げた時、車が急にスピードを落とし、道路脇の少し広くなったスペースにハザードを出して止まった。
 そしてアイドリングさせたまま、松木さんが真っ直ぐに私を見た。


「今のは本気?」


 松木さんの顔は怖いくらいに真剣で、上手く声が出せなくて、ただ大きく頷いた。


「帰りたくないって、俺のいいように捉えるよ?」


 また黙って頷く。


「本当に? 俺みたいなおっさん相手に?」

「松木さんは全然おっさんなんかじゃありません!」


 反射的に勢いよく否定してしまったけど、松木さんの驚いた顔を目にした私は、途端に恥ずかしくなって慌てて下を向いた。
 緊張で小刻みに震える身体を必死に抑えようと、膝の上で両手を強く握る。
 ここまできたら腹を括るしかない。


「松木さんは、すごく素敵で……私みたいな子供は相手にならなくて、迷惑かもしれないですけど、それでも……、それでも好きなんです!」


 言った。ついに告白してしまった。
 あとはもう、どうにでもなれって気持ちでさらに強く手を握り締めた。
 だけど、返ってきたのは予想外の言葉。

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