自分勝手な恋

「君はバカか?」

「え?」



 今のは聞き間違い?
 そう思ってしまうほどに告白の返事としてはあり得なくて、ぽかんとしてしまった私はきっと間抜けな顔をしてる。
 松木さんは小さくため息を吐くと、別の質問を口にした。


「何で俺が好きでもない子と、こんなに何回も出かけると思うわけ?」

「それは……松木さんが優しいから……」

「優しくないよ、俺は。ただ自分勝手なだけ」

「そんなこと……」


 言葉に詰まって戸惑う私の握りしめた両手に、松木さんはそっと左手を置いた。
 そしていつもの優しい笑顔。……じゃない。これは違う。ずっと見てきたからわかる。
 この笑顔は特別なものだ。


「ずっと好きだった。一年以上前からずっと」

「松木さん……」


 信じられない言葉。思いがけない告白。
 それでも少し乱暴になった言葉遣いと、いつもよりもっと優しい笑顔が真実だと伝えてくれる。


「広野さんは覚えていないだろうけど……。昨年の春、食堂で仲の良い連中とバカな話をしてた時、振り向いた広野さんと目が合って……気まずくて笑った俺に返してくれた笑顔にやられた。そこからはもう止まらなかった。いくら別居中とはいえ、俺は結婚していて、17歳も年上のおっさんで、好きになる資格さえもないってわかってたのに」


 込み上げる感情が強すぎて、涙まで出てきそうで、唇を噛んで首を振るだけしかできなかった。
 好きになるのに資格なんていらない。
 嬉しすぎて言葉が出てこない。



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